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2018.10.03

シンガポール旅行記 その69

 このままシンガポール最後の夜は待ち続ける時間で終わってしまうのか。雨で中止じゃ誰にも文句は言えないし...。本当は気持ちを切り替えて別の場所を楽しむべきなのだろうが、ずいぶん端っこの方まで来てしまった。疲れた心と体を引きずってこの雨の中を引き返す気力をほぼ失っていた。ここで食事でもしようか。何となくそれも違うなぁ。何を話すでもなく、ぼーっと時を過ごしていた。

 7時を少し回ったところだろうか。まわりが微かにざわつき始めた。妻が先に気づいた。雨がやんだのだ。そして人々の動きにも変化が出た。みんなが一斉にスーパーツリーの方に歩き出した。そうか、ガーデンラプソディーを見ることができるかもしれない。我々も行こう。

 とりあえず傘はいらなくなったが、空に星が見えているわけではない。本当にショーを見ることができるのかはよくわからなかったが、この人々が振りまく空気はなぜか確信に満ちあふれている。夜の森の小道を少し迷いながらツリーを目指して歩く。急に開けたところに出た。スーパーツリーの森のど真ん中だ。電飾で飾られたツリーはすでに輝いていた。すごい。その姿を見ただけでさっきまでの疲れが完全に吹き飛んだ。興奮している妻が、自分がわかった。

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   輝く樹々が迎えてくれた       ベイサンズとスーパーツリー

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 スーパーツリーの間にかかる高さ22m、全長128mの吊り橋スカイウェイ

 ショーそのものよりも妻が楽しみにしていたのは、ツリーをつなぐ吊り橋「OCBCスカイウェイ」を歩くことだった。チケット売り場に行くと、残念ながら「荒天のためお休み」となっていた。この状況ではそれは仕方がない。上から見下ろす風景もきっと見事だったんだろう。それよりもショーはあるのか。誰も立ち去ろうとしていない。ここにいる人たちは誰もが奇跡を信じて疑っていない。そして、時がきた。

 静かに音楽が流れ始めた。なんとついにショーが始まったのだ。

 大きく呼吸をするようにスーパーツリーがゆっくりと点滅する。樹々の鼓動が聞こえてくる。色とりどりに苔むした幹が光を放ち、空に広がる枝が曇り空に七色の星を描いた。森の中の木の根元にいる私たちの視野はあまりにも狭く、全体を見渡すことはできない。その分、この小さな世界の空気まで五感で感じることができた。首が痛くなるほど上を見上げ、光と音楽が舞う姿をただ黙ってじっと眺めた。目の前で同じように空を見上げる妻の背中が見える。その瞬間、カナダ旅行の最後の夜、パーラメント・ヒルで迎えたあの感動のフィナーレとまるで同じ時を「感じている」自分に気がついた。そう、あの時とまるで同じだ。この時を妻に経験させたくて、ここに連れてきたのだ。私たちは確かにシンガポールにいるのだ。そう思うと、あの時と同じようにまた暗闇の中で感動の涙があふれでてきた。


 
 
 This is my country, this is my flag
 This is my future, this is my life
 This is my family, these are my friends
 We are Singapore, Singaporeans       "We Are Singapore"
 
 
 流れる音楽の所々で聞き取れた歌詞の断片が、こころを揺さぶっては私の中に溶け込んでいった。私の心と体は完全にシンガポールに包まれていた。

 この旅の最後の時間に、こんなフィナーレが用意されていただなんて。

 心の底から感動した。本当に幸せな時間だった。

 妻をシンガポールに連れてきてよかったと思った。

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     本当の星空にも負けない美しさだった
 
 
 そして、感動の「ガーデン・ラプソディー」は静かに終わった。
 
 妻はこの旅をどう感じたのだろう。本当はカナダに行くはずだった。シンガポールは思いつきの代案だった。代わりだったら、きっと韓国に行きたかったはずだ。でも確かに初めての二人での海外旅行。この旅の中にも楽しかった思い出はたくさんできたのではないか。私にとって二度目の海外旅行が、私にそう思わせる心の余裕を与えてくれている。カナダに行った時は「これが最後の海外旅行になるかもしれない」と感じていたが、今は違う。あの時のあの瞬間には、何かが終わった感じがしていた。でも今は違う。次はどこに行こうか? もっといろんな国に行ってみよう。終わりだけど始まりのような気持ちがあふれている。ちっとも寂しくない。本当に素晴らしいフィナーレだった。

(つづく)

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